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2021~2022年度の群集属性検討成果とその公開

-群集属性マトリックスの解説と今後の方向性-

表1 群集属性マトリックス/バイオーム(PDFファイル)

表2 群集属性マトリックス/環境省植生図凡例(PDFファイル)

 

はじめに

 群集属性の検討成果については,既に植生情報28号(2024年4月)において「群集属性検討委員会報告-群集属性の検討に関するこれまでの経過と成果について-」として報告しました.しかし報告に際して,Microsoft Excelのシートでまとめられた群集属性マトリックスは,その大きさから植生情報の紙面上では掲載が難しいこと,完成途上の状態のため暫定版としての報告になることから,一部を省略した概要版の形での掲示にとどめています.そして報告後も継続して原表の加筆修正等を行い,より完成に近づけたものをできる限り早い段階で植生学会のホームページ上の「群集属性」サイトに公開する方針で進めてきました.しかしながら,すでに概要版の報告から1年が経過しており,これ以上の公開遅延は好ましいものではありません.そこで,現段階でも未記入部分が残されてはおりますが,内容的には植生学会員の皆様の用に供することが可能と判断し,原表の全容を公開することといたしました.

 ここに提示した群集属性マトリックスは,群集属性マトリックス/バイオーム(表1)群集属性マトリックス/環境省植生図凡例(表2)の2つです.

 これらの群集属性表の検討にあたっては,群集属性検討委員会全委員で議論を重ねた結果,植物社会学的体系中心でまとめると分かりにくい人もおられることを配慮し,より分かりやすく群団レベルに対応させ,植生相観,生活形,立地などが比較できるように検討しています(表1).また,おりしも環境省植生図凡例検討委員会でも植生図凡例に関する属性検討を行っており,同委員会との合同ヒアリングを通じて環境省凡例に使われた群集単位に対応する,分布,気温,降水量,地形等の属性をまとめています(表2).

 今後も引き続き,環境省植生図凡例に利用された群集単位の環境情報を深め,凡例以外の群集単位を追加,充実させる作業を継続して行く所存です.

 

1.群集属性マトリックス(表1~2)について

1) 「表1.群集属性マトリックス/バイオーム」の植生単位と属性

 群集属性マトリックスの作成にあたって,環境省植生図凡例で使用されている植生単位のうち「群落」レベルのものは取り上げず,植物社会学の基準植生単位である「群集」に限定し,それらと各属性との対応関係を示しています.

 表1は,日本国内に生育する植生を相観・気候帯・土地的要因などの属性を類型基準とする生物群系(バイオーム)としてまとめ,それらと群集を基準とした植物社会学的植生体系に対応させたもので,植物社会学的群集単位の外観的な特徴を捉えることができます.

 しかし,表1にまとめられている194の群集は,学術研究により正式に発表されたものですが,現在の環境省植生図では凡例として使用されておりません.同植生図にはそれらに対応する凡例として,相観・優占種などで類型化された,内容的にそれらの群集と同義または類似した「群落」が使用されています.この群落が「群集レベルの群落」(環境省生物多様性センター http://gis.biodic.go.jp/webgis/sc-015.html)とされているものです.

 それらの「群落」は,種組成的にはそれぞれに関連する群団に位置づけられますので,表1では各群団に所属する「群落」をそれに対応する「群集」で表記しています.一方,表1の群集欄には表2に示した環境省植生図の群集が対応しますが,現在は空欄にしていますので表2をご参照ください.今後随時整理し,空欄を埋めて行く予定です.

2) 「表2.群集属性マトリックス/環境省植生図凡例」の植生単位と属性

 今回の群集属性検討にあたっては,上述のように環境省自然環境保全基礎調査植生図(環境省植生図)の凡例検討部会とタイアップし,同植生図の凡例と属性の対応システムを利用させていただきました.同部会にはここに改めて感謝申し上げます.

 表2は,その凡例と属性の対応システムを利用して作成しました.その結果,環境省植生図凡例には247の群集が使われており,それら各群集についての所属群団,優占種,主な構成種,水平分布および気候・地形属性がまとめられています.一方,表1に示した群集については,上述の環境省植生図凡例システムの属性データとは対応していないため,表2のような属性マトリックスに示すことはできておりません.

 

2.環境省自然環境保全基礎調査植生図とその凡例について

 環境省現存植生図は,自然環境保全基礎調査の一環として1973年度第1回調査の1/20万図にはじまり,1/5万図整備を経て,2024年度に第7回の1/2.5万図の全国整備が終了しました.この約半世紀にわたる現存植生図整備は,国家的取り組みとして高く評価されるものです.

 環境省生物多様性センターの植生図凡例解説によれば,そこに使用されている凡例は,全国的観点から整理された統一凡例であり,合計で約950にも及んでいます.それらは3段階に区分され,それらの類型基準およびその数の関係は,大区分:相観(58),中区分:優占種(約360),および細区分:種組成(約520)となっています.大区分は群系や相観レベル,中区分は一部にクラス(群綱)を含みますが,大部分は群団に相当しますので基本的に細区分が本来群集で扱われるべき凡例といえます.そのうち群集は上述のように247ですので,細区分全体の半数を満たしておらず,さらに約950の統一凡例全体では26%に過ぎません.このように現時点では,植物社会学的な基本単位である群集は,環境省植生図整備事業の凡例として十分な役割を果たしているとは言いがたい状況となっています.

 植生図凡例を設定するにあたっての植生単位の整備状況として,現在までに全てのタイプの植生が群集として類型化されているわけではないこと,人工林,人工草地,造成地など人工的なもの,偏向遷移系列途上の群集表記が難しい植生もあることなど,「群落」を用いざるを得ない事情があることは仕方のないことかもしれません.しかし,群集が植生図凡例として利用頻度の低い状況に留まっているのは,それらの事情だけではなく,「群落」とくらべると以下に考察するように,使用されにくい理由があると考えています.

 

3.植物社会学的群集の整備状況とその普及の実態

1) これまでに記載された国内の植物社会学的群集の概数

 群集が環境省植生図凡例に使われにくい原因として,日本国内での植物社会学的な調査研究が不十分で,凡例に使用するための十分な群集が不足していることが考えられます.そこで,これまでに記載された群集数を確認したところ,以下の状況となっています.

 これまでに国内で記載された植物社会学的群集は,表1の198群集と表2の247群集以外にも多数の群集が記載されています.例えば,改訂版日本植生便覧(宮脇・奥田・望月編 1983)には,それまでに刊行された多くの学術研究報告から42クラス,68オーダー,129群団,654群集が整理されています.また,日本植生誌「全10巻」(宮脇編著 1980~1989)には日本各地から611群集(+691群落)が報告されています.その後も多くの研究者によってさまざまな群集が報告されており,これらは概算すると950にも及んでいます(植物社会学研究会:未発表).このように日本国内の様々な植生タイプについて多くの群集が記載され,体系化が進められてきています.このことから,群集が植生図凡例に使われにくいのは,日本国内における群集記載と植生体系の整備の立ち遅れではなく,ほかに原因があると考えられます.

  ※日本植生誌が刊行された時点では,群集として規定できていない「群落」が群集の数を上回っており,現在でもそれらの群集化に向けた検討が課題となってる.

2) 群集と群集レベルの群落について-群集という植生単位のわかりにくさ-

 「群集レベルの群落」については上の1.1)でも述べましたが,それらの中にはクロベ-キタゴヨウ群落のように,アカミノイヌツゲ-クロベ群集に該当する植生単位であっても「群落」を用いている例がみられます.このように正式に規定された既存の群集があっても慣例的に使われてきた群落名が優先されている例や,同じ群集でも自然林と二次林を区別するために二次林を群落で表記している例などもみられます.また,群集属性検討とも関連しますが,植物社会学的な群集には馴染みが薄いため扱いが難しく,分かりにくいということがあるようです.群集とはどのようなもので群落とどう違うのか.あるいは,クヌギがない植分でもクヌギ-コナラ群集とされ,タブノキが優占するヤブコウジ-スダジイ群集があるのはおかしい,というように群集に対して不信を感じられている方も少なからずおられるようです.

 

4.群集属性の選定と内容の記述,その整理の重要性

1) 群集の記載と属性

 改めて言及するまでもありませんが,「群集」は,植物社会学における植生類型の基本単位であり,多くの研究者が野外調査資料を基に記載し体系づけてきた,かけがえのない研究成果といえるものです.植生を構成する具体的植物群落としての植分は,種組成,生活形,優占種,構造,立地環境など様々な属性を有しています.植分どうしの比較により地域的な群落が区分され,さらに他地域の群落と種組成など諸属性の広域比較により,標徴種など互いに共通した属性を持つ群落が群集として類型化されます.それらの群集は,命名規約(Jean-Paul Theurillt et al. 2019:国際植物社会学命名規約第4版)に基づいて規定・登録され,植物社会学的植生体系に整理されます.

2) 群集概念の普及に向けて - 群集属性の整理とその意義 -

 抽象化された植生単位である群集には様々な属性が反映されているため,名称だけでその群集の種組成,分布,生態,立地環境など植生情報の概要を把握することができます.しかし,「群落」は局所的な属性の特徴にとどまり,名称からの植生情報の把握は群集ほど質的ではありません.

 以上のように,各群集に関わる属性の種類の検討・整理とその解説は,群集概念の理解,周知,普及をはじめ属性の特徴から各群集の違いを明確に示すための手段となります.また,植生図への適用とその判読,景観解析,生物多様性評価など,生態系や自然環境保全のための有効な植生情報データベースの構築につながって行くと考えます.

 

 以上のことから,植物社会学的植生体系と多様な群集属性とを対応させたデータベースにより,植生分類の専門家でなくても,調査した植分が具体的にどのような群集なのかを判定するために有効な群集属性マトリックスの早期の整備が強く望まれます.

 

 

2025年5月20日

         群集属性検討委員会

   文責:鈴木伸一(2024年度委員長)

 

群集属性検討委員(五十音順)

設楽 拓人(森林総合研究所, 多摩森林科学園)1), 2)

鈴木 伸一(IGES国際生態学センター, 東京農業大学)1), 2), 3)

鐵 慎太郎(倉敷市立自然史博物館)2)

中村 幸人(東京農業大学)1), 3)

浜田  拓(㈱地域環境計画)2)

松井 哲哉(森林総研森林植生研究領域,筑波大学)1)

 1) 2021~2022年度委員,2) 2023~2024年度委員,  3) 委員長

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